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18話 鈍感なユウヤと高鳴る鼓動

Author: みみっく
last update Last Updated: 2026-01-04 06:00:00

「え……あ、はい。そうですね、そうします。い、いただきます……」

 ミユは、そう言って、差し出されたホットコーヒーを両手で受け取った。手のひらに伝わる温かさが、彼女の緊張をさらに高める。ミユは、ホットコーヒーの飲み口を、じっと見つめている。ユウヤの口が触れた場所に、自分の唇を重ねていいのだろうか……。ミユの頬は、みるみるうちに赤く染まり、その心臓は、ドキドキと高鳴っていた。

 (先輩のことが怖いんじゃない。ユウヤくんの優しさが、近すぎて……)

 意を決したように、ミユはゆっくりと、飲み口に口をつけた。ユウヤの唇の感触を確かめるように、そっとコーヒーを飲み込んだ。その甘く温かいコーヒーは、ミユの体を温めると同時に、彼女の心を甘く満たしていくようだった。飲み終えた後も、ミユは両手でカップを包み込み、その温もりを離せずにいた。

 戸惑いながらホットコーヒーを飲むミユの姿を見て、ユウヤは焦りを覚えた。自分の飲みかけを渡したことで、彼女に嫌な思いをさせてしまったのではないかと、そう思ったのだ。

「わ、悪かったな。俺の飲みかけなんて渡しちゃって……イヤだったろ。ムリさせちゃって悪かったな……」

 ユウヤは気まずそうに言うと、ミユからコーヒーを受け取った。ユウヤは、その残りを一気に飲み干す。自分の口が触れた飲み口に、ユウヤが再び口をつけ、ゴクリと飲む姿を見て、ミユの顔はさらに赤く染まった。ミユの視線は、ユウヤの唇に釘付けになっていた。

「……イヤじゃ……ないって言ったのに……ばかぁ……」

 ミユは俯き、残念そうに小さな声で呟いた。その声は、ユウヤの耳にはほとんど届いていないように聞こえたが、ユウヤはまたしても焦り、ミユの顔を覗き込んだ。

「え? 何か言ったか?」

 ユウヤが顔を近づけてきたことで、ミユの心臓はさらに激しく高鳴る。顔の距離が縮まり、ユウヤの吐息がミユの頬にかかった。ミユは、恥ずかしさから目をぎゅっと閉じ、口元を片手で覆った。

(もっと一緒にいたかったのに、ユウヤくんの飲みかけが飲めて、嬉しかったのに……)

 ミユの心の中は、ユウヤの鈍感さに対する不満と、彼への愛しさでいっぱいだった。

「……むぅぅ。勝手にくれた物を奪わないでくださいよぅ……わたしの、飲みかけ……ですよ」

 ミユは、俯いたまま、不満そうに小さな声を漏らした。唇を尖らせているのが、ユウヤにも想像できた。

「いや、その……イヤそうに飲んでたから気を遣わせちゃったかと思って……それじゃ、近くのコンビニで買いなおすか」

 ユウヤは、そう言いながら、ミユの手を引いて立ち上がらせた。その瞬間、ミユは顔を真っ赤にさせ、ユウヤから顔を逸らした。ユウヤは、ミユが急に触れられたことを嫌がっているのだと勘違いし、慌てて手を離した。

「あ、悪い……ついな」

 ユウヤの言葉に、ミユはさらに顔を赤くし、心臓が激しく脈打った。

(違う! 嫌なわけないじゃない! むしろ、ユウヤくんが優しく手を引いてくれたことが、嬉しすぎて……)

 ミユの胸中は、喜びと恥ずかしさでいっぱいだった。彼女は、ユウヤの勘違いを訂正できず、俯いたまま、彼の隣で立ち尽くしていた。

 ユウヤは、気まずそうに頭を掻いた。自分の行動がミユを不快にさせたのだと思い込み、どう言葉をかけたら良いのか分からずにいる。ミユは、何も言わずに俯いたままだった。その小さな体は、僅かに震えていた。

 まさか、初対面の仕事先の先輩に、物事をはっきりと言い、棘のある言い方をしてくるミユが、ユウヤに心を惹かれ、手を触れられたことにドキドキと緊張しているなど、ユウヤは思いもしなかった。ユウヤの目に映るのは、ただ怯えて震える、繊細な後輩の姿だけだった。

(まだ怖いんだな……俺が余計なことをしたせいで、もっと不安にさせちゃったか)

 ユウヤは、自身の鈍感さを悔やんだ。ミユの震えは、恐怖からくるものだと完全に誤解していたのだ。ユウヤは、これ以上ミユを追い詰めてはいけないと判断し、一歩距離を取った。

「悪かった。もう、帰るか。送っていくよ」

 ユウヤは、そう言って、優しくミユの背中に手を添えようとして、寸前で止めた。彼女が、これ以上身体に触れられることを嫌がるのではないかと恐れたからだ。

 ミユは、またしても驚いた顔をしてユウヤを見つめた。ユウヤは、触れることをためらい、不安そうな表情を浮かべている。その優しさが、ミユの心を締め付けた。

(……鈍感すぎ! 変な奴はすぐに勘違いして声を掛けて来るのに……。声を掛けて欲しいユウヤくんは……もぉ! ばかぁ……)

 ミユの心の中は、ユウヤの優しさに対する愛おしさと、勘違いしていることへのもどかしさでいっぱいだった。彼女は、彼に嫌われていると誤解されていることに気づき、悲しくなった。このまま離れたくないという強い願望が、ミユの胸の中で渦巻いていた。

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